日本料理で味付けをする時に使われる基本の調味料、「さ・し・す・せ・そ」
これは単によく使う調味料を羅列しているだけではありません。調理するときに使うべき「順番」を表現しているのです。
「さ・し・す・せ・そ」の「さ」は砂糖、「し」は塩、「す」は酢、「せ」は旧仮名遣いで「せうゆ」と書く醤油のこと、そして「そ」は味噌のことを表しています。
「さ・し・す・せ・そ」はこれらの調味料をこの順番に加えて行くと、料理が美味しく仕上がるという意味を含んでいます。
いつごろから、この順番が語られるようになったのかはわかりませんが、これらの調味料の大本は奈良時代頃までにはすべて日本にそろっていたようです。それぞれの調味料は日本独特の発展をとげて、長い間に日本の食文化の中で培われ、その使う順番も「さ・し・す・せ・そ」として経験的な知恵となって現代に伝えられてきました。
今、日本のどこの家庭にもあって、なにげなく使っている調味料「さ・し・す・せ・そ」ですが、一つ一つに歴史があり、日本の風土の中で独特の風味を育て、色々な性質を持ちながらそれぞれの役割を担い日本料理のベースとなっています。
今回は、普段あまり意識しないそれぞれの性質について、詳しく紹介してゆきましょう。
この記事の目次
1番はじめに入れるのは砂糖
砂糖は塩より前に入れると「味が染込みやすい」」という理由があります。昔は経験でそのことが分かっていたのですが、現代では科学的にその理由が説明されています。
ポイントは「分子の大きさ」。
砂糖の分子は塩より大きいため、先に塩が浸透すると後から砂糖が入り込みにくくなってしまうのです。後から砂糖を入れてもなかなか甘くならないのはこのためです。また、砂糖は素材を柔らかくし、味をしみこみやすくする効果がありますので、最初に入れるのがベストなのです。逆に塩は材料を固くする性質がありますので、塩よりも前に砂糖を入れたほうがよいとも言えます。
薬種だった砂糖
調味の順番では一番の砂糖ですが、砂糖が比較的一般的な調味料として広く使われるようになったのは、他の調味料に比べて新しく、サトウキビが日本国内でも栽培されて国産白砂糖が上方の市場に出されるようになった江戸中期以降のことのようです。
一説では奈良時代、鑑真和上が日本に初めて黒砂糖をもたらしたと言われています。 砂糖が文献に現れたのは遣唐使が活躍するその奈良時代の書物で、東大寺に奉納された薬の目録「種々薬張」に記されているそうですから、当時から、薬種として用いられていたようです。
砂糖の効果はいまでは科学的に解明されています。砂糖の主成分グルコースとフルクトースは効率よくエネルギー源となる糖質です。また、甘いものを食べると脳内に快感を生じさせる物質が放出されることがわかっています。意欲的になったり、鎮痛効果もあるということですので、病気などで体が弱った人の回復のために薬として使われていたというのも納得できますね。
保水性などの性質をもつ砂糖が果たす効果
砂糖は水によく溶け、素材の中に入ると、その水分を抱え込んだり離さない「保水性」という性質を持っています。この保水性から、肉や卵などタンパク質の多い素材を軟らかく仕上げ、冷めると固まる性質のある澱粉の加熱加工食品も柔らかさを保つ事ができます。 砂糖を加えた求肥(ぎゅうひ)や餅菓子が固くなりにくいのは砂糖が加えられているためです。
また、砂糖は材料に染込んで水分を抱えこむことで、細菌やカビなどが繁殖するための水分を奪うために防腐性があります。砂糖をたっぷり使った羊羹や砂糖菓子、ジャムなどはが長期間もつのもこの性質のおかげです。
メレンゲを作るときに滑らかで安定した泡をつくることができるのも保水性のおかげです。その他、砂糖はそのものがイースト菌の栄養分となって働きを活発にしてくれるため、パン生地をよく膨らんでふっくらと仕上げるためにも利用されています。
2番目は最も重要な塩
塩は最も重要な調味料です。塩味をつけるだけでなく、味のバランスを崩さずに味の濃さを調節することもできます。少し格式の高いレストランでも、塩だけはテーブルに置いてあったりしますね。これはシェフの味を崩さずに味の濃さだけを調整することができるからです。
塩には脱水作用があるので、生の魚や肉にふる事で余分な水分を除き、うまみを凝縮させ、臭みまで取ってくれます。
塩には保存性を高める効果もあります。大量に用いる事で腐敗を防ぐことができます。これも脱水効果によるものです。「塩漬け」は最も古い保存方法ですね。
また、生野菜にふると余分の水分が出るので、仕上がりが水っぽくならず味を絡めやすくすることができます。
塩は味の決め手
美味しいと感じる塩加減は、人の体液の塩濃度(0.9%)にほぼ近いもの、約1%と言われています。これは、塩が人が生きて行く上で欠かせないものだからでしょうか。 塩は体内でナトリウムと塩素に分かれ、血液やリンパ液などに一定の割合(これが約0.9%なのです)で溶け込んでいて、身体の60〜70%を占める水分量を調節しています。 この調節機能は大変重要で、塩は血圧の調節、神経の情報伝達、栄養素の吸収、輸送などに関わって身体の健康的な維持に貢献しているのです。
塩加減は多すぎても少なすぎても美味しく感じられず、人によって感度にも違いがあるため料理の世界では「庖丁十年、塩味十年」というくらい大変難しいものです。塩は他の調味料を引き立てる役割もあります。砂糖の甘みを際立たせたり、酢の味をしっかりと出したりする効果もあります。 なので、塩は全ての料理の味の決め手になるものであるといえるのです。
3番目その1は風味を生かしたい調味料「酢」
「さ・し・す・せ・そ」のす、せ、そは酢、醤油、味噌です。この3つはいずれも発酵食品で、それぞれ独特の風味と旨味を持っています。 あまり早く入れてしまうとその風味が飛んでしまい、せっかくの深い味わいを失ってしまいます。そのため、後のほうの順番になっており、酢、醤油、味噌の中では順番は特にありません。
酢の原料にはリンゴやブドウ、米、麦、トウモロコシなど様々なものがありますが、5世紀頃に日本で始めに醸造の製法が伝えられたのは中国からやって来た米酢だそうです。あまり癖の無い現代の米酢は様々な料理に使いやすく、生産量も消費量も最も多い酢になっています。
酢はそのままの味を楽しむ使い方と、調味料として料理に使う、主に2つの使い方があります。酢の物や、酢漬け、ピクルス、などはそのままの味を楽しむメニューです。酢を使ったこれらの一皿があれば、食欲そそる変化のある献立になりますね。ツンとした刺激を弱く柔らかい味に仕上げたいときは、火を通します。例えば、三杯酢などを作るときには軽く一煮立ちさせます。
酢は中華料理を始め、野菜の炒め物、肉の煮込みやソテーなど油の多い料理にも活躍します。脂っこさをおさえ、すっきりとした仕上がりになります。
肉を柔らかくする効果もあり、特に煮込みの調理に加えると軟らかく仕上げることができます。
生魚を酢の物にするときには塩でしめた後に酢に漬けたり、酢洗いといって酢をさっとまぶしたりすると味付けになるだけでなく保存性もよくなります。強く塩でしめた後は、酢につける事で塩出しにもなります。
酢の健康効果
酢の健康効果は広く知られていますね。内蔵脂肪や皮下脂肪を減らしたり、血糖値の上昇を抑える効果、血圧やコレステロール値を改善する効果があることが分かっています。また、鉄やマグネシウム、カルシウムなどミネラルの吸収をよくしたり、糖分と一緒に摂る事によってエネルギー源の一つであるグリコーゲンの補充を促進する高価があります。これが酢が疲労回復に効果的と言われる所以です。
3番目のその2は風味を生かしたい調味料「醤油と味噌」
醤油も味噌も、ともに大豆の発酵食品で、日本を代表する調味料です。
発酵食品は世界中にありますが、醤油や味噌に使われる黄麹菌を用いているのは日本だけです。黄麹菌は日本に特有な麹菌で、別名ニホンコウジカビと呼ばれ、日本の気候風土でのみ繁殖しています。国花や国鳥に準じて2006年に日本醸造学会によって国菌に認定されているそうです。この麹菌があったからこそ日本特有の醤油、味噌という発酵食品が発達し、日本独特の食文化が発展したとも言えますね。
醤油の調理方法
刺身につけるといったように、そのまま食べることも多い醤油ですが、煮物などにも活躍します。煮物の場合は、味と風味を生かすためには全量一度に加えずに分けていれるという方法が有効です。先に入れる分は味をつけ、最後に火を止める前に加える分は風味を出すために使うのです。
淡口醤油と濃口醤油
紀州の湯浅で今につながる醤油が生まれ、16世紀の終わり頃には大阪ではかなりポピュラーだったようですが、醤油は江戸時代に入って江戸にも運ばれていたものの、関東で醤油が造られるようになったのは、江戸時代の半ばも過ぎていたころです。
醤油は大きく分けて、濃口醤油、淡口醤油、溜り醤油、再仕込み醤油、白醤油の5つがあります。濃口醤油は全体の80%を占めるもっともメジャーな醤油ですが、関西では淡口醤油も好まれています。
淡口醤油は色が薄く、塩見が強いことが特徴です。濃口醤油の塩分濃度がおよそ16%なのに対し、淡口醤油は18%と濃く、炊き合わせや吸物などに用いると、素材の色と風味を生かしたすっきりとした仕上がりになります。
濃口醤油はそれ自体の風味が強く、照りを出したい料理や素材の臭みを消したり、こっくりとした味わいに仕上げたい時に特に向いています。
この違いがわかりやすいのはうどんのつゆで、関東風は見た目に黒っぽく、醤油の味が立っています。これに対して関西風はだしの味が立っていて、色も薄く琥珀色です。使っている醤油が違うと、このような違いが生まれます。
味噌の調理方法
味噌は含まれているタンパク質に食材の臭みを取る効果があります。また、味噌は香りが強く、料理に風味を与えます。味噌の風味を生かすには煮立てないことが大切です。味噌は出汁に溶いてお味噌汁を作るときに、沸騰する前に火を消すと香りが生きて風味豊かに美味しくし上がります。
栄養豊富な食糧としての味噌
塩漬けの発酵食品「醤(しょう)」を作る過程のもの=「未醤(みしょう)」が味噌の始まりです。平安時代の文献にすでにこの言葉が登場し、鎌倉時代には玄米に干物、味噌汁という取り合わせが武士の食事の基本になっていたそうです。
味噌はタンパク質が豊富で、ビタミン類やカルシウムなどのミネラル類も豊富です。室町時代に様々な味噌料理ができ、庶民が味噌を手作りし、日本の各地で味噌がつくられて、地方によってそれぞれの味噌が生まれました。
味噌の健康効果
大豆そのものも植物性の良質タンパク源として知られていますが、味噌という発酵食品に加工されることによって、消化吸収がよくなり、血糖値の上昇をおさえ、生活習慣病のリスクを下げる、発酵によって抗酸化物質が生じ、老化抑制効果が生じるなど、多くの良い効果があります。
まとめ
「さ・し・す・せ・そ」に代表される調味料以外にも、酒や味醂なども日本料理に欠かせない調味料といえます。これらもやはり酢や醤油の仲間、発酵食品です。シンプルだけれども深い味わいがあり、砂糖や塩とのコンビネーションがその深みを増します。それらをうまく活用して、おいしい日本料理を作りたいですね。