料理を簡単においしくできる料理の救世主「うま味調味料」。文句なしにおいしくなるので料理に多用している方もいるかもしれません。でも、なんだか「体に悪い」とかいう話もちらほら見かけますね。何が体に悪いといわれているのでしょうか、本当のところはどうなのでしょう?
そもそも、「うま味調味料」って何なのでしょう? 何でできているのでしょう?
うまみ調味料の成分や、健康に良いのか悪いのか、詳しく見ていきましょう。
この記事の目次
「うま味」と「美味しい」ってイコール??
うまみ調味料の「うま味」とは、いったい何なのでしょう?
うま味は人が感じることが出来る味覚の1つ。人間の舌には「甘み」「苦み」「うま味」「酸味」「塩味」の5つの基本味を感じる機能が備わっています。 うま味以外の味は想像できますが、うま味がどんな味なのかピンと来ないかもしれません。
昆布だしに味をつけないで飲んだときの、唾液が自然ににじむような、何とも言えない深くほのかな味わいがうま味です。
これに対して「美味しいさ」は5つの味のバランス、食感や香り、見た目なども関係してきます。うま味は美味しさの一部であって、うま味=美味しさではありません。
とはいえ、うま味が美味しさの重要な要素であることは間違いありません。うま味が多いものは美味しく感じやすいですね。
「うま味」の成分って何?
うま味の成分は様々ありますが、代表的なものは3つです。
一番有名なうま味物質は「グルタミン酸」でしょう。1908年に東京帝国大学の池田菊苗博士が昆布だしの美味しさの正体がグルタミン酸だということを突き止めました。しかし世界的には懐疑的な人も多く、実際に舌にうま味を感じるセンサーである受容体が2000年ごろに見つかってようやく世界的に知られるようになったのです。
菊池博士の発見に続いて、イノシン酸とグアニル酸が発見されました。この3つが代表的なうまみ成分で、それぞれに特徴があります。
うま味成分を料理に使いやすくしたのが「うま味調味料」です。グルタミン酸ナトリウムをベースに他のうま味物質を加えたものが一般的ですが、上記3つのうま味物質やその他成分の配合を工夫し美味しさを出すようにしている商品もあります。
まずは、うま味物質について確認してみましょう。
うま味物質は沢山の種類がありますが、 3つの系統に分かれています。それがアミノ酸系と、核酸系と、有機酸系です。
【1】うま味物質・アミノ酸系
1つ目はアミノ酸系です。アミノ酸系の代表的うま味物質は、「グルタミン酸」と「アスパラギン酸」です。
人間の体は50%が水、脂肪が15%、その他5%、残りの20%がタンパク質でできています。このタンパ質をつくっているのがアミノ酸です。人間の体を構成しているタンパク質は10万種類あるといわれていますが、すべてがたった20種類のアミノ酸の組み合わせでできています。このアミノ酸の一種が、グルタミン酸とアスパラギン酸です。
【2】うま味物質・核酸系
核酸系のうま味物質も、ポピュラーな成分です。
煮干しや鰹節に含まれているイノシン酸や椎茸に含まれるグアニル酸が核酸系に含まれます。
アミノ酸系と核酸系が合わさることでうま味が増します。これを「うま味の相乗効果」と呼びます。お味噌汁の出汁は、昆布(グルタミン酸。アミノ酸系)とカツオ節(イノシン酸。核酸系)から取りますね。日本人は昔からうま味を最大限に出す方法を経験的に知っていたのですね。
【3】うま味物質・有機酸系
3つ目のうま味成分は、有機酸系。代表的な物質は、コハク酸です。
コハク酸は貝類に多く含まれる物質で、貝独特のうま味を持っています。シジミやアサリのお味噌汁を作るときは、昆布や鰹などの出汁を使わない時もあります。これは貝に元々うま味があるからなのですね。
コハク酸も他のうま味とプラスすることで強いうま味を発します。貝のお味噌汁にも他の出汁を合わせるともっとおいしくなるということですね。
うま味調味料は自然のものなの?
うま味成分はアミノ酸の一種なので、どれも人間に必要な成分だということがわかりましたね。そしてどれも鰹節や昆布など、自然の食品に含まれる成分だということがわかりました。
健康に良いのか悪いのかと言われると、悪い要素は何もないように感じますね。それなのに何故「うま味調味料は身体に悪い」と言われてしまうのでしょうか?
それにはこんな過去の事件が関係しているのです。
【中華料理症候群(グルタミン酸ナトリウム症候群)】
今から約50年ほど前、アメリカで中華料理を食べた数名が食後に頭痛や身体のしびれを訴えるという事件が起き、人々の間では「中華料理症候群」と呼ばれるようになりました。
当時アメリカの中華料理店では、グルタミン酸ナトリウムがよく使用されていました。このことに注目して、症状の原因はグルタミン酸ナトリウムではないかとされました。
それを裏付ける研究もされたのですが短期的に大量のグルタミン酸ナトリウムをラットに与えるという極端なものでした。
この結果を受け、一時はWHO(世界保健機構)もグルタミン酸ナトリウムの1日の摂取量を定めていましたが、現在は廃止されています。
1970年代に入ると「中華料理症候群」の報告も一気に減少しているようです。結局、本当の原因は今もわからないままです。
一度ついてしまったイメージはなかなか変えることはできません。この事件をきっかけに、身体に悪い、というイメージがついてしまったのでしょう。
アメリカでは現在も「NO!MSG」(グルタミン酸ナトリウムは使用していませんの意味)を掲げる中華料理店や飲食店も存在するほどです。
うま味調味料=化学調味料
また、うま味調味料はかつて化学調味と呼ばれていました。1950年頃「化学」という言葉は、もてはやされている単語の1つでした。民放テレビの放送が開始されたり、東京タワーが出来たり、高度成長期のまっただ中で、日本中が化学の恩恵を受けていた時代です。
化学調味料という名前は今と違いプラスの意味を持っていたのです。
しかし、後に工業汚染などにより化学への不信感が高まります。その名前から、化学調味料も悪いイメージがついてしまいました。
こんな事情で1980年代に、化学調味料はうま味調味料と名前を変えたのです。
しかし、古い世代には化学調味料という名称が根強く残っており、化学=身体に悪いという印象が今も残っているのでしょう。
うま味調味料はどうやって作るの?
うま味調味料はどうやって作っているのでしょう。
原料は、サトウキビやとうもろこしです。ということは、サトウキビにグルタミン酸が入っており、それを取り出しているのでしょうか。
実は、サトウキビにはグルタミン酸は含まれていません。
では、どうやって合成しているのでしょうか?
1950年代、グルタミン酸ナトリウムは生産が難しく高価なものでした。生産量を上げるため、様々な研究がなされましたが、大幅な生産量アップには繋がりませんでした。
その後、発酵技術を使用した精製方法が開発され、うま味調味料の価格は当初の3分の1程度になり、広く家庭に普及するようになったのです。
塩分が多いのではないか?
うま味調味料が身体に悪いと言われる1つに、ナトリウムの量を指摘する人もいます。確かに塩分を摂りすぎると、高血圧や腎疾患など身体に様々な害があるので、控えたいものです。
最も有名なうま味調味料「味の素」を例に考えてみましょう。
味の素の成分の97.5%はグルタミン酸ナトリウムで、残りの2.5%はリボヌクレオチドナトリウム(イノシン酸ナトリウム+グアニル酸ナトリウムの混合物)です。
うま味成分には相乗効果がありますから、複数のうまみ成分を組み合わせているのですね。
さて、この中に塩分はどのくらい含まれているのでしょうか。「ナトリウム」というのは塩のことです。グルタミン酸ナトリウムはグルタミン酸とナトリウムが組み合わさったものですから、塩分が含まれます。
グルタミン酸ナトリウムの塩分量はどのくらいかと言いますと、食塩と比較すると約3分の1程度。
この塩分を計算に入れずに、料理を作る際、「うま味調味料+通常の塩分量」を使用してしまうと、食塩の量が多くなってしまいます。これが塩分が多いという印象の原因でしょう。
うま味調味料は塩分を追加しなくてもうま味を感じられるように作られていますので、うま味調味料に含まれる塩分を計算して料理すれば何の問題もないと言うことになります。
美味しいけど取り過ぎには注意!
うま味調味料の種類や成分、精製方法などを知った今、明らかに「これは身体に悪い!」という要素はほとんどないと言えるのではないでしょうか。
製法も時代に合わせて進化していますし、研究も進んでいます。安全で簡単に美味しくなるのならたくさん使おう! という方はちょっと待ってください。何事も過剰は良くありません。塩分の問題もそうですが、強いうま味に慣れてしまうと、自然の食品で作れるうま味が弱く感じてしまい、結果的に味がわからなくなってしまうことも考えられます。何事もほどほどに楽しみたいですね!